根拠のない自信だけで生きてきた

ふざけた事を真面目に考察するネタブログです

興味のない人と喋るのって楽しい

少し前までマッチングアプリをやっていて、数人の女性と飲みに行ったことがある。今風に行ったらマッチングアプリだが、要は出会い系アプリ。始める前は普通に生活していて男に相手にされないやばい人たちの巣窟と思っていたんだが、不思議なものであなた全然モテるでしょ。っていうような人が何人もいた。最近のマッチングアプリは凄い。普通に可愛い子がいる。

 

マッチングアプリは簡単に言ったら、写真数枚と、年齢、身長や体型、居住地、職種、性格、自己紹介、あとまあ色々とプロフィールを見て、相手にいいねをしてお互い気があったらメッセージのやりとり。そこからLINEに移行して会う約束をする。

 

実際に僕もガッツリやってた時は週一ぐらいで別の人と飲みに行っていた。あれはなかなか貴重な体験でかなり初対面の人とのコミュニケーション能力が鍛えられた。知らない人と話すのって楽しい。マッチングアプリの場合は女の子の大半が一昔前の出会い系サイトのようにすぐホテルみたいな感じではなく、本当に職場などで出会いがなく恋人を求めてやっている人が多い。だからなのか、載せている写真も会った後のことを考えて、あまり実物とそこまで大きな差がない人が大半だった。だから合コンなんかより手軽にいろんな人と出会えて楽しいということで一時期ハマっていた。

 

その日も身長153cm、体型普通。写真も可愛い。そんな人と会う予定だった。メッセージでの会話も弾み、趣味も合いそうで、僕はかなりの期待をしながらお店を予約した。その日は仕事帰りの約束ということもあり、朝シャンを決め、髪をしっかりセットし、普段より少し高めのジャケットを羽織りって出勤した。

 

19時。いつもより早めに仕事を切り上げ、職場の駅前の喫煙所で一服をし、「これから向かうね」とLINEをしてから待ち合わせの新橋へ向かった。すぐに「わかった!」と返信が来た。

 

待ち合わせはSL広場。20時の待ち合わせ。少し早めに着いた僕はトイレで髪をチェックし、ミント系のガムを買ってSL広場に向かった。

 

20時まで後5分。「もう着いたよ!」僕はLINEを送った。

 

「私ももう着いてるよ!」

 

すぐに返信が来た。ドキドキした。何人と会っても待ち合わせの時間はいつも緊張する。

 

僕は辺りを見渡した。SL広場は待ち合わせの定番スポットとも言える場所で、平日ながらそれなりに多くの人がいる。僕は端から端まで歩き、その人を探した。

 

だが、しばらく探してもそれっぽい人が全く見当たらなかった。

 

「あれ?どんな服装してる?」

 

僕は彼女にLINEを送った。

 

「Gジャンに白のスカート!」

 

すぐに返信が来た。

 

辺りを見渡す。だがどうしてもそれっぽい人が一人も見当たらない。

どうしようもないので逆に探してもらうことにした。

「全然わかんない!僕マツキヨの前にいるんで来れますか?」

「わかりました!すぐ行きますー!」

 

すると、一つの大型の物体が動き出した。

 

「え…」

 

実は探していた時、Gジャンに白のスカートという人は一人だけ見つけていた。だがそれは意図的に除外していたのだ。語弊がないように言っておくが、写真を盛るという文化は知っている。だから探していた時にも顔写真はそこまであてにしていない。何人か会った中には顔が全然違う人もいた。だから顔が違うという部分で除外したのではない。まずプロフィールに書いてある体型と大きく異なっていた。体型は普通。確かにそう書いて会ったはずだった。だが僕が見渡した時のGジャンに白のスカートは明らかに肥満。デブだった。Gジャンはパツパツ。本来受け入れるはずのサイズを大きく超えていた。

 

…だが違う。写真だけしか見ていない人と待ち合わせをしているのだ。体型ぐらい見栄を張るのだって考慮できる。体型が違うぐらいで僕は候補から除外することはないのだ。

 

ではなぜ僕が検索対象から彼女を除外したのか?

 

彼女は身長153cm。確かにそう書いてあったはずだ。探しながらも何度も確認した。

だが動き出したその彼女は、明らかに僕よりも身長が高く、おそらく170以上はあるだろう大きさだった。「ヒールでしょ」そんな声が聞こえて来そうだが、それだってしっかり確認した。完全にペタンコの靴だった。

 

153cmの小柄で可愛い女の子を待っていたら、そこには170cmの肥満体型。結婚相談所で看護師を探してもらったら相撲取りを紹介されたようなもの。ペットショップで猫を飼いに行ったらカバを売りつけられたような衝撃。

 

正直別に相手がブスだって僕は大して気にしない。ブスやデブと飲むことは良くある。だが巨漢のプロレスラーはダメだ。横幅だけなら許容できるが、縦幅もあっちゃダメだ。怖すぎる。万が一喧嘩になったら張り手一発で殺される自信がある。

 

「ジョニーさんですか?」

僕にはそれがメデューサに見えた。目を見たら石になる。

「は…はい…」

 

カツアゲをされている気分だった。「その場でジャンプしてみろ」そう言われるんじゃないかと、すでに僕はいつでもジャンプできる体制を取っていた。

 

「すぐわかりました!写真の通りですね〜」

彼女はそう言った。僕はまともに顔をあげることができなかった。

だが既に店は予約してある。やっぱりやめましょうは店に申し訳ないし、そもそも話してしまった手前、もう逃げることはできない。ダークソウルのボス戦を思い出した。入ってきた道が霧のようなもので塞がれていた。

 

僕は覚悟を決め、店へと向かった。並んで歩く僕らはまさに親分と子分。いや巨漢の彼女の脇に小柄でヒョロヒョロの僕だ。漫画で言ったら真の実力者は僕だ。そんなことはどうでもいい。

 

「予約していたジョニーです」

そう言って店に入った。店員のこの2人組はなんだ?カップルには見えないし、無理やり連れて来られているのか?という表情が見て取れた。

彼女は見た目の似合わず声はとても女性的で可愛らしい話し方だった。だが完全に僕のストライクゾーンからは大きく外れており、恋愛対象としては一ミリも見えなかった。だから僕はもう覚悟を決めた。この時間、この瞬間を全力で楽しんでやろうと。

 

そこからは僕の独壇場だった。失礼のない範囲で全力で彼女をいじり、そして自分の好きな話をし続けた。彼女も思い切り笑ってくれた。こういう場合美人や好きな人相手だとこうはいかない。相手を気遣い。相手の興味のありそうな話題を振り、相手に気持ちよくなってもらうために僕は行動する。

 

だが興味のない相手だとその必要は全くない。全力で笑いに振り切った話をし続けた。チャラかった時代にナンパしてホテルまで行ったのにチンコが立たなかった話や、中学時代に親父の部屋のビデオを見たら両親のハメ撮りビデオだった話。こんにゃくでオナニーをしようとしてレンチンしてから挿入したらチンコを火傷した話。おしゃれなカフェで僕は普段女性の前では絶対にしない話をし続けた。その結果僕は今まであった誰より楽しい話、面白い話をすることができた。

 

彼女も彼女で自分がどれだけ女として見られないかを笑い話として延々喋ってくれた。僕は人と話すときにこれほど自分をさらけ出したことはないかった。楽しかった。自分の女に対する意見や、不満。求めること。全てを話した。人生でもかなり濃密な2時間だったと思う。興味の一ミリもない相手だからこそできたことだった。その頃にはもう彼女にあった時の不安や恐怖は一ミリもなかった。

 

存分に楽しみ。ラストオーダーの時間が終わったので店を出た。時間は11時。

 

彼女は言った。

「もう少し一緒にいたいな…」

 

「いや明日早いんで」

僕は足早に家に帰った。