30代男が初めての美容院に挑戦してあたふたした話2
この記事は前回の初めて美容院に行って6ミリの狭間に挟まれて死にかけた話の続きです。こちらから先に読んでください。
後ろの刈り上げを6mmにするのかどうするのか。僕は美容師に問われた。
僕は言った。勇気を出して言った。
「お願いします!」
なぜこの程度の言葉に勇気を出さなければ行けなかったのか。
それは僕には6mmが長すぎるのか短すぎるのか。どうなるのか全くわからないからである。初めての美容院。そもそも6mmがどれぐらいか知ってるのなんて野球部ぐらいだ。初めて何かを始める人間なんて大体そんなもんだ。
こんなもんは生後3ヶ月の子供に資本主義と民主主義のメリットとデメリットを聞くようなもんだ。僕が言える言葉なんて「ばぶー?」以外無いのである。
6mmの話を2個目の記事にまで長々書いても仕方ないので結果を書くととてもいい感じに仕上がった。美容師様様である。
その後、全体のカットの段階に移行した。
「どのぐらい切りますか?」
「!」
僕は2つ目の問題にぶち当たった。なぜならちょっと前に写真を見せたばかりだからだ。写真を見せて、その通りにして欲しいのだ。それを実現するためにどれぐらい切ればいいのか、それをこちら側で把握しているこそすらもオサレワールドでは当然のことと言うのか?
確かにオシャレに生きオシャレに死ぬ、その世界の住人ならどこをどう切ればどうなるのか。そんなことは当たり前のことなのかもしれない。
そんなことがわからない人間は美容院というオサレ界の最高峰とも言える場所に来てはいけないのかもしれない。
だが僕はその程度で挫けるわけにはいかなかった。僕は東京の美容院に行き、そして今度も通い続けたいという野望があるからだ。
だから僕は言った。言ってやったのだ。相手を屈服させるであろう一言を。
「どれぐらい切ったらいいと思います?」
勝った。知識のないものができる最大の返答だ。この言葉を言うことで知識のない者でも知識ある人の上に立つことができるのだ。正解を相手に委ねるとともに相手を試すかのような形を作ることができるのだ。
「うーん。とりあえず毛先1cmぐらい切ってみましょうか。」
…チョキチョキ
…チョキチョキ
「どうですか?」
まさかこんなことが起きるとは思わなかった。美容師はただ単に毛先を1cm切ったのだ。その挙句に「どうですか?」だ。
これに僕はなんと返せばいいのか。美容院初体験の僕が、どうですか?に意見を言えると言うのか…。
どう考えても物足りない。僕の求めているイメージには程遠い。だがどこをどう切ればイメージに近づくのか。それが僕にはわからない。
ベジータがセルにビックバンアタックを打つ。セルは受ける。だが砂煙の中から無傷で立ち上がる。そしてセルは言う。
「どうですか?」
ベジータに言える言葉なんて「なん…だと…」と言って気功砲を連打するぐらいしかない。なぜならもはやどうしていいかわからないからだ。
僕は不満があった。1cm切った髪型に。
1cmしか切っていないんだ。何も変わっていない。それなのに「どうですか?」なんて聞かれてなんと言えばいいんだ。
僕は言った。渾身の力を振り絞って。
「いいんじゃないですか?」
こうして僕の美容院初体験は終わった。刈り上げられた襟足と1cmだけ切られた髪のまま店を後にした。
PS.最後のシャンプーの時にあったかいタオル渡されたんですがアレなんなんですか?10秒ぐらいで返したけど。